4
グランドラインに限った話ではなくのこと、小さな島や港町などに多いのが。大なり小なり海賊の根城になっていて、その支配が大っぴらではなくとも、繁華街の興行などの黒幕や後ろ盾として 多大な影響を及ぼしている…という話。他所の凶悪な乱暴者がなだれ込んで来て暴れないよう、眸を光らせてやるからその代わりにと、用心棒代の“みかじめ料”というのを納めさせたりするのは序の口で。町の自治や利権へも一枚咬んでは、人性で選ばれるべき代表の選出に横槍を入れ、自分たちと結託している人物をこそ顔役にと後押しをしたり。言いなりにならぬ相手へは、それこそ本領を発揮し、怪我を負わせたり、略奪を図ったり、悪事の限りを尽くしてやるぞと脅しに掛かり。恐怖で支配する…というのがおおよそのセオリーではあるが。こちらの小島が属す群島は、その成り立ちからして 海軍の補給基地としての整備・入植を経ているがため。近場に海軍の駐留基地があるその上、自治組織もしっかり確立していて。警邏専任とはいえ自警団も存在するせいか、そこまで酷い海賊だの悪党だのに牛耳られてはないらしく。そんなほど長閑で、特に目玉があるでもない退屈な小島へ上陸した 我らが“麦ワラの一味”の面々。次の島へのログも1日かからず書き替わる、くどいようだが特にこれといって目を引くような、特産物やら名産品やらがあるでなし。はたまた、意味深な伝承や海賊が残したらしき宝の噂があるでなし。大蔵省あらため金融省である航海士さんが、その双眸をお金の単位にするような掘り出し物も、はた迷惑しか呼び込まぬ船長が、その双眸をキラキラさせる探検だの冒険だのの気配もなく。じゃあそういうことでと 日付の変わらぬうちに出港してしまう予定だったはずだったのが、
「よお、。」
「………え? あれれぇ?」
にっぱぁーっと、音がしそうなほど朗らかに笑って、昨日の同じような頃合いにも足を運んだ、噴水広場前の教会へ姿を見せた二人連れ。いやまあ正確には、昨日は彼らの内の片割れの方が先に来合わせていて、ピアノの調律という騒ぎが始まったのにも動じずに、延々と かあかあ寝てたワケなんだが。
「ルフィじゃない。どうしたの?」
何だか不思議な雰囲気の、飄々とした男の子。酒場のオーナーで、繁華街の暗部の顔役でもあるらしい、ヘルメデスというおじさんとその取り巻きが。そういうことをするから小者というのだ、たかだか小娘相手に威圧しに来たところに居合わせて。寡黙な用心棒が殴り掛かって来たものを、一応はひょいと軽やかに躱したところが何ともお見事だった彼らだが、
「確か、昨日のうちに出港するって言ってなかった?」
だって、ここは本当に小さな何の変哲もない片田舎の小島。次の島へだって、ともすれば…ログに頼らなくとも、目視で目指すことが出来ようほど近いせいか、この島への物資補充という貨物船でもない限り、どんな商船でも客船でも、入港したとて、せいぜい食料や真水の補給かログの修正しかして行かない。船から降りても来ない旅行者だってザラだから。彼らもまた、文字通りの行きずり、聖堂へ西日が差し始めた頃合いに、バイバイだねってそのままお別れしたはずなのにね。あれはこっちの聞き間違いだったのかなと、今日は聖歌の練習か、楽譜を手にしていたが小首を傾げれば、
「それがよ、
ウチの航海士が“もう2日ほど滞在するから”だってよ。」
我儘というか気まぐれというか、自分勝手で困るよなと。目元を眇め、下唇を突き出して…という、思い切り不平顔になって見せたもんだから、
「何よ、その顔。おっかしぃ〜〜vv」
するんとした童顔だったのが、くしゃっとしかめっ面になったその落差が可笑しくて。遠慮も容赦もなく“きゃははvv”と笑い出しただったのへ。こちらさんも“なはははは”と笑い返すと、
「だもんだから、が言ってた祭りも見て行けるぞ。」
「え? ホント?」
ありゃそれは嬉しいなと、今度は素直に喜ぶ少女であり。だって、何の面白みもない島には違いないけれど、だからって すぐ忘れ去られちゃうのは癪じゃない。ここだって“聖泉のお祭り”の最中は、他の島からも見物が来て、そりゃあ賑やかになるんだよ?
「それに、も活躍するんだしな。」
ルフィからそうと屈託なく言われてしまい、却って“ありゃりゃ”と照れが生じたか、
「それはまあ、おまけみたいなもんだけど。/////////」
昨日の、顔役のおじさんへも動じずに、威勢のいい啖呵切ってた強気はどこへやら。今日は何でか、柄になく もじもじしちゃったお嬢さんだったりし。そんな二人の微笑ましいやり取りを眺めつつ、
「まあ、派手な愁嘆場こそ やんなかったとはいえ。」
「……察してくれよ。」
こちらは それぞれのお子様の保護者格にあたろうお二人が、やっぱり昨日の立ち位置を彷彿とさせるよな位置にて声を交わしており。
また逢える保証はないけど、またな……と
ここがグランドラインという苛酷な航路だからこその、一応は今生の別れのような、清々しくもしみじみとした“バイバイ”をしたはずなのに。そのすぐ翌日にひょこりとお顔を出すなんて。
「逢わないように気を配ってりゃ、バレなかったかも知れぬのに。」
何もわざわざ、言葉を交わした自分らへ報告に来なくともと。こちらさんは…少なくとも、そこいら辺の気まずさというか、照れ隠しっぽい空気を咬みしめているらしい、眉間に昨日より1.5倍ほど多いめに、ぐぐんとしわを寄せていた剣士さんらしいのへ。同情とも忠告ともつかぬ言い方をした、アンダンテさんだったのだけれども。
「こ〜んな世間の狭い土地じゃあ無理だ。」
「…………悪〜ぁるかったな。」
悪意は無かったんだろうけれど、田舎であるがゆえ隠れようがなかろうと切り込まれ、返す言葉がなかったお兄さんが、ややムッとしたのは否めなかったりして。(苦笑)ここまでの会話、特にお互いのお顔を見るでなく、
やったね、じゃあアタシの歌も聞いてってねvv
おお、楽しみにしてんぞvv なんて
ほのぼのした会話を交わしておいでの、坊っちゃん嬢ちゃんを見やりつつという。ちょみっと他人事っぽい片手間なところまでお揃いで。自分らはあくまでも傍観者で居よう…と、そこまで構えているつもりまではないながら。でもでも、視野の先にてはしゃいでるお子様が愛おしいから、ま・いっかと 何でも許せてしまえる、特別な許容発動中。
……アンダンテさんはともかく、
剣豪のほうは
それでいいのだろうか、果たして。(う〜ん)
何かややこしいことになってなかったですかねと、昨日の“その後”を思い返せば、
“しゃあねぇだろうが。何も真相を全部話す義理はねぇんだし。
それに……。”
腹芸は苦手だと、ますますのこと その口許を苦虫百匹咬みつぶしたように、うにむにとひん曲げた、緑頭の屈強な剣豪さんだったのは……
◇◇◇
昨日の“その後”へと逆上っての、さて。補給という目的もない身で上陸した女性陣営二人が、だというに、この島での稼ぐネタを見つけたと。それは意気揚々と口にしたお話へ、
『俺、その儀式の3年連続歌姫さんと友達んなったぞ?』
『なぁんですってぇ!!!』
船長さんたちが出会って意気投合していた歌姫さんとは、微妙に敵対者だった側の顔役、胡散臭いことこの上もなかった酒場のオーナーさんと、契約しちゃってたらしい彼女らだったそうであり。
「酒場のオーナーって奴にも たまたま逢ったがな。」
世の中の事象には、見る角度によって色々な面がある。同じ出来事であれ、それへ関わる立場が違えば、受け止めようも違ってくるとは言うけれど。
「どう見たって、腹に何か一物抱えてそうな、
いかにも怪しい、チンケな小者だったじゃねぇかよ。」
何でまたそんな奴へ与(くみ)するような、ややこしい話に乗っかるかなと。忌々しいのと呆れ果てたのとが入り混じったような、何とも不快というお顔になったゾロが、吐き出すように詰言を放れば、
「そうは言うけど、本番まで日も迫ってることだし。
善良な地元のかたがたに すっかりと信用してもらうには、
これで結構 手間暇が掛かるもんなのよ?」
しかも、微妙に信仰にからんでる話みたいだってのに、一通りの話を聞いた上で、そこへ音叉を取り出しての“科学的な”色々を手掛けたりした日には。こいつら俺らの崇拝を馬鹿にしてやがる…なんて。感情的なお怒りだって買いかねないしと、あくまでも理論的にあたったまでだと、クールに主張する航海士さんであり。
「だから、
ビジネスライクな契約を結ぶ方が手っ取り早いもんなのよ。」
どうせお祭り限りの縁だもの。万が一にも優勝とやらをもぎ取れなくとも、前金だけ抱えて、尻に帆掛けて逃げるって奥の手だって使えるし…なんて。いかにも大人な判断だと言いたげだったナミだったが、
「そうよね、
大人たちの世界には
色々と複雑な理屈が絡まり合ってるものなのよ。」
ナミの言いようももっともだという後押しか。サンジが用意したアイスティで口許を湿したロビンが言葉を継いで、
「船長さんみたいに、
曇りのない笑顔だけで人を信用させられるなんてのは、
そうそうなかなか出来ることじゃあないものなの。」
やんわりと細めた目許が大人の寛容に満ちてのやわらかな。そんな飛びっきりの微笑みを見せてくださった、考古学者のお姉様だったもんだから、
「そうなのか?」
「それは言えてるよな。」
当事者のルフィがキョトンとしたのへ、ウソップがうんうんと頷く傍ら、
「…そういう言い方されると、傷つくんだけどロビン。」
「あら、大人の狡猾さをクールに威張りたかったんじゃあ?」
それも素敵よ?航海士さん、と。やっぱり“ほほほvv”と事もなげに微笑ったロビンさんだったのもまたお約束。お約束と言えば、
「ぬぁんでまた お前ばっかり、
ご当地の可愛い子ちゃんとほいほい縁を作るかな。」
どこまで皆のお話を真剣に聞いていたのやら。こんの“人誑(たら)し”がよと、どこまでも伸びる上に、本人にはあんまり応えてないらしい、頬っぺツネツネの刑を繰り出した、コックさんだったりもして。
「ひゃめろよ、シャンジ。」
それよかメシだメシと急っつくばかりな船長さんもまた、この“ダブルブッキング”状態へは何とも思ってないらしいところが、問題だったら問題なのだが、
“そこはまま、ルフィだから仕方がねぇって。”
“そうそう。”
目顔での意見交換をなさった一部の大人たちだったのもまた お約束。それはともかくとして、(笑)ルフィさんの女運に関しては、コック氏が忌々しいと思う気持ちも判らないではないけれど。これはやっぱり、何と言いますか
「下心がないからじゃね?」
「んだんだ。」
「〜〜〜〜〜〜。」
お後がよろしいようで………。
BACK/NEXT→
*とりあえず、
歌姫のさんとは
再会と運んだルフィさんだったようでございまし。
こそこそ身を隠すなんて柄じゃあありませんし、
お祭りの最中、お〜いって手を振ること請け合いですものね。(笑)

|